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真珠養殖の「抑制」という作業。仕立ての話。

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先月のこと、ひさしぶりに真珠養殖の現場を視察したのだが、こんなことを考えてしまった。

真珠養殖で意外と理解されてないのが「抑制」だと思うのだ。

真珠養殖業界用語でいえば「仕立て」の話である。もちろん仕立てには卵抜きも含まれるだろう。このあたりがややこしいのだが、卵抜きについては後述する。

真珠養殖というと、アコヤガイにメスを入れて貝殻を削った丸い核を挿入する「挿核」、そればかりが注目されるようだ。けれど適切に「仕立て」られたアコヤガイでなければ良い真珠はつくれない。

仕立てが大事なのだ。

 

さて、抑制とは、

挿核(手術)する前のアコヤ貝の生理活動を抑制して、挿核時の拒絶反応を抑えて斃死を減らすというものである。アコヤガイの身がやわらかくなり手術がしやすくなる。

抑制作業は抑制カゴと呼ばれるプラスチック製のカゴ(卵抜きカゴ、卵カゴとも呼ぶ)に貝を詰める。カゴは構造上入り込む水流が少なくなり、そのためアコヤガイは餌であるプランクトンが十分に摂取できない。つまり中のアコヤガイを絶食させるわけである。陸上の動物に例えれば冬眠状態にさせるのだ。

「抑制は生かさず殺さず」などという言い方があるが少し違う。とにかく元気で健康なアコヤ貝を抑制しなければいけない。抑制は貝を弱らせるという意味ではないのだ。「麻酔」の役割という言い方が近いと思う。

 

さて、抑制には時期によって秋抑制と春抑制とがある。

秋抑制は秋に卵を持ってない貝をカゴに詰めてそのまま卵を持たせない。「生殖腺の発達を抑制する」と書かれているのは、つまり秋抑制のことだ。

春抑制は十分に卵を持たせた(生殖腺の発達させつつ)健康な貝をカゴに詰めて、途中でなんらかの刺激を与えて排卵させる。卵巣(生殖腺)の位置に挿核するわけなので卵を抜いてしまわなければ綺麗な真珠ができない。

人為的に放卵させることを「卵抜き」と呼ぶ。抑制カゴを「卵抜きカゴ」と呼ぶのはここからきている。

真珠養殖がはじまった当初は、アコヤガイが卵を持つ6~7月は挿核(手術)はしなかったというから、考案された当初は画期的なテクニックだったに違いない。今の真珠養殖では、5~7月といえば挿核のハイシーズンである。

ここのポイントは十分に生殖腺を発達させておかないと、容易に放卵しないということだ。アコヤガイを弱らせてしまうと放卵しにくくなるのだ。

十分に生殖腺が発達した貝を放卵させて、何日間かの回復を待てば、生殖腺が発達したあとなのでアコヤガイの身も大きく挿核手術が容易になる。


一部の貝が放卵を始めると、それに誘発されて、まわりの他の貝も放卵が始まり、そのときは海水が真っ白に濁ってしまう。ある意味、風物詩ともいえるのではないか。

日本では6月くらいだろう。(6月にこの記事を書けばよかったか。)

(もちろん放精している貝もある。実は放精が放卵を誘発しているらしいのだが、専門家ではないので省略。)

 

 

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