養殖の流れ - 養殖真珠が生まれるまで -
真珠には天然真珠と養殖真珠があります。
かつてヨーロッパ人が『オリエンタルパール』と呼んで珍重したころは、真珠は自然から採取するごく希少な存在でした。
貝の体内に偶然侵入した砂などの異物と一緒に貝殻をつくる組織(外套膜)が入り込むと、外套膜が真珠質を出して異物を包み込んでいきます。
それが天然真珠ですが、発見して採取するのは大変なことです。
天然真珠は丸い大きなものは少なく、変形した小さなものがほとんどでした。
1893年御木本幸吉(ミキモトコウキチ)がアコヤ貝で半円形の真珠養殖に成功して以来、様々の人々の研究と努力の結果、真珠養殖の技術が進歩し、今日では私たちの目にする真珠のほとんどが養殖真珠です。
天然真珠と養殖真珠は、核になる異物と外套膜が貝の体内に偶然入ったか、人工的に入れられたかという違いだけで、作られたメカニズムや成分は同じといえます。
どちらも貝の有する自然の力なしでは形成する事はできず、真珠そのものに優劣はありません。
では、養殖真珠が出来るまでに、具体的に何をしているのかを見ていきましょう。
養殖真珠の出来方は、大まかに下の5つの工程があります。
- 母貝育成
- 仕立作業
- 挿核施術
- 養生・珠貝育成
- 浜揚げ
5つの工程を一つ一つ解説していきます。
1. 母貝育成 - 真珠を育む母貝を育てる -
真珠養殖に欠かせないのが、西日本一帯の海に棲息しているアコヤ貝。
体内に真珠を育てるこの母貝の確保が大切です。
アコヤ貝の天然採苗は愛媛県南部、高知県東部海域で主に行われます。
5月から始まる産卵期に合わせて6月初めに杉葉などを海中に投入。
天然の受精卵から発生した稚貝をその杉葉に付着させて8月に取り上げ母貝となるまで育てます。
近年では天然採苗ではなかなか大量に採取できなくなったことや、より優れた母貝を確保するために人工受精させ稚貝に育てるという方法が広く行われています。
その稚貝をカゴに並べてイカダに吊して海中に入れ、貝の成長に合わせてカゴを入れ替えたり、貝掃除、貝殻寄生虫駆除など手をかけながら母貝を育成します。
稚貝は約1年半で重さ30~50gになり、その後1~2年で70~80g、殻長10cmほどに成長します。
母貝を育む養殖場は、餌となる植物性プランクトンが多く潮の流れが緩やかで外洋水が適度に流れ込むところが最適です。
2. 仕立作業 - 施術前には深い眠りの状態に -
メスで切開し、核という異物を体内に埋め込む挿核施術は、アコヤ貝に大きなダメージを与えることになります。
この挿核施術に備えて貝を適した状態にすることを仕立作業といいます。
挿核施術時のショックを和らげ、貝が核を吐き出すのを防ぐために、貝の生理活動を抑制し深い眠りの状態にします。
また核が入るスペースを確保するために卵や精子を取り除いて生殖巣を空にします。
貝の特性を利用
アコヤ貝は、周りの環境に順応して活動しますので専用のカゴに多数の貝を詰め海水の流入を大きく制限して酸素や餌となるプランクトンの供給を抑えると貝の生理活動が鈍化して刺激に対する反応が鈍くなります。
また、体内に蓄えられた栄養素だけで生活するため卵や精子、グリコーゲンなどの栄養物質が消費され核を受け入れるスペースが出来上がります。
時期
これらの貝の特性を巧みに利用したのが仕立作業で、主に4~6月に挿核する貝は、前年の11~12月にカゴ入れ作業を行い挿核施術までの間、貝の生理活動を制限し生殖巣の発達を抑制します。
これを秋抑制(卵止め)と呼んでいます。
一方、6~10月に挿核する貝は、春まで十分に栄養を蓄積させ生殖巣を充実させた貝を使います。
それらの貝をカゴ詰めし、海に垂下する深さを変えたり、日干しするなどの刺激を与えて卵や精子を一斉に放出させ、生殖巣を空にする作業を春仕立(卵抜き)と呼んでいます。
これらの仕立作業を行うと、貝が核を吐き出したり、ショックで衰弱して斃死したり、卵や精子に邪魔されて品質の悪い真珠が出来ることを防ぐことができるので仕立作業は良質真珠の生産には省くことの出来ない非常に重要な作業です。
3. 挿核施術 - 繊細かつ速やかに行う、真珠養殖技術の中心 -
挿核施術とは、アコヤ貝の体内に淡水性二枚貝からできた丸い核と、ピース(外套膜切片)を挿入する外科手術(オペ)で真珠養殖技術の根幹といえるものです。
一般的には、以下のような手順で行われます。
- 手術室に運んだ貝を開口器で1.0~1.5cm開けて貝台に固定。
- ヘラでえらをかきわけメスで足の基部を切開して、そこから真珠核を挿入する位置まで核の通り道をつける。
- 挿入器(核送り)を使って核を挿入してピースと密着させる。
- ピース針にピースをつけて所定の位置にピースを挿入する。
内臓や器官を傷つけず、手早く確実に作業するには、繊細な神経と訓練が必要とされます。
挿核施術は4月上旬から10月頃まで行われ、気温の高い夏は貝の衰弱をさけて一時中断。
水温18~25℃が最適とされています。
また、ひとつの母貝に2個の核入れをするのが一般的ですが7mm以上の大きな核は1個入れにします。
4. 養生・珠貝育成 - 美しい真珠創造に細やかな気配りを -
- 挿核施術から回復を早めるために傷口を上に向けて貝をきれいにカゴに並べ、潮の流れの少ない作業場前の木枠筏に2~3週間ほど垂下して静かに養成させます。
- その後、やや沖合いの潮流のある海域の筏で管理して活発に成長させ身を太らせていきますが、この時期、色、照り、艶のよい良質の真珠質を分泌させ核の表面にできる限り多くの真珠層を巻かせます。
- 水温や塩分濃度、溶存酸素量、プランクトン量などの漁場環境チェック、貝に付着するフジツボや海草などを除去する貝掃除や、貝殻につく寄生虫を防除作業など、さまざまな養殖管理作業が必要となります。
また、8℃以下の水温や30℃以上の水温が続くと死んでしまうため、適水温の漁場へ輸送させる避寒・越夏作業も欠かせない大事な作業です。 - 10ヶ月~2年ほど育成された貝の体内では美しい真珠が育ち、人の目に触れず輝いているのです。
- 浜揚げ前の1~2ヶ月間の貝の状態は、真珠の品質に大きな影響を与える大事な時期であり、さらなる慎重な管理が必要とされ、化粧巻き漁場と呼ばれる最も適した環境の漁場で育成されます。
5. 浜揚げ - 待望の瞬間、光輝く真珠の誕生 -
収穫の喜び真珠養殖の今までの苦労が、美しく輝く真珠の出現で報われるかどうか、養殖業者にとって最大の楽しみであり、緊張する瞬間が、浜揚げと呼ばれる収穫作業です。
水温の低下する12月下旬から2月上旬にかけては真珠の表面光沢が最も良くなり、色調もピンクを帯びるようになって、浜揚げの最適期となります。
その収穫日は試験的にいくつかの貝を剥いて判断します。
真珠を取り出す作業
貝を開け、貝剥きナイフを用いて一個一個丁寧に真珠を採取します。
収穫した真珠は、回転する桶に塩と一緒に入れて磨きあげ、水洗いした後に商品価値のある浜揚げ珠、商品価値のない有機質真珠、核のまま出てくるシラ珠、細工用や薬用などのケシ珠などに分類され浜揚げ珠はサイズ別・等級別にふるい分けられ出荷を待ちます。
自然の神秘
同じ条件のもとで育った真珠の品質に大きな差が生じるのは、大自然の神秘としか言いようがありませんが、大きな真珠核を使うと良質の真珠が採れる確率はさらに下がることになります。
花珠真珠
花珠真珠とはアコヤ真珠の中で、一番きれいな商品の総称になります。
「 " 花珠真珠 " = " アコヤ真珠 " 」の事です。
その他、淡水パール・南洋白蝶真珠・タヒチ黒蝶真珠の3種類の真珠には、花珠真珠はありません。
余談ですが、白蝶真珠の最高ランクは「ゴールドリップ、シルバーリップ」、黒蝶真珠の最高ランクは「ピーコックグリーン、ブラックリップ」など、と言われることもありますが、実は販売側が勝手につけているにすぎません。
良い真珠を選ぶ方法はただ一つ。
信頼の置けるショップさん、または信頼の置ける人から買うのが一番です。
では、何故アコヤ真珠しかないのでしょうか。
真珠は一回の浜揚げで、数百~数千の真珠が取れます。
その中には、くすんだような珠もあれば、きれいな珠もあります。
その中でも特に綺麗な「ピカッ」と輝きを放つ珠がいくつか取れることがあります。
それを、昔から真珠業者から通称「花」と呼んでいました。
業者間の会話では「今回の浜揚げで、花あったか?」
などという使われ方をしていました。
そこから出来た言葉が花珠真珠なんですね。
花珠真珠と付けたのは、真珠科学研究所が初めです。
実は現在、花珠という表記は " 一般社団法人日本真珠振興会 " から、「注意喚起」がされています。
その理由は、下のURLにも書いていますが、花珠の乱用により品質が良くない真珠にも花珠と付けて販売している業者が増えたためです。
http://www.jp-pearl.com/caution.html