台風シーズンの真珠養殖
今年は台風が多い印象があるが、8月、9月と固まって発生しているからだろう。
2016年の台風1号発生が7月3日でかなり遅かったのに、あっというまに例年と並みの発生数になったとか。
気象庁のサイトをみてみると、2016年9月末時点で、日本に上陸した台風の数は6。
年間上陸数の最大値は2004年の10が最多。(*統計を開始した1951年以降)。そうだったかなあ。そんなに多かったかな。
真珠貝は海底に住んでいる。真珠養殖は海で行われる。台風の通り道に位置することが多いのか真珠養殖場は台風被害にあいやすい。
真珠養殖場ではないが、真珠採りで有名なオーストラリアのブルーム(過去記事参照)は台風(サイクロン)の多い地域だ。1985~1971年までの87年間に1371人の日本人移民が現地で亡くなっているとのことだ。(PDF オセアニアにおける日本人移民の歴史と実態)
その中に、台風による死者がかなりの割合で含まれていると思われる。1908~1935年の間には真珠採り(パールダイバー)の日本人が300人以上亡くなっているのだ。ブルームの墓地にはその慰霊碑が残っている。
参考 Monument Australiaの記事
(A stone obelisk commemorates the Japanese pearlers who were drowned in a cyclone.)
また、戦前の石垣島での黒蝶真珠養殖の黎明期には台風被害で苦労したという。興味深い話なので琉球真珠会社のサイトより引用する。(強調タグは筆者)
名蔵湾の御木本真珠養殖場では、沖に向かって石積みの堤防を築き、その堤防内の海底で真珠母貝を養殖しました。
そこで潜水作業をしていたのは三重県から来た海女たちで、石垣島の人々はその姿を物珍しそうに眺めたそうです。
名蔵湾の養殖場は相次ぐ台風被害のため、崎枝屋良部崎へ移動することになります。古賀氏はこのころ共同経営から手を引きます。ところが屋良部崎もまた、台風被害が大きく閉鎖を余儀なくされます。http://ryukyu-shinju.co.jp/
現在の真珠養殖は海上に筏を浮かべて、そこに真珠貝の入った網を吊っている。ちなみにこの吊り下げ方式が発明されて、それまでの直播き(真珠貝を海底に撒いて育てる)の養殖から生産効率が飛躍的に高まったという。(海女の仕事は減ったらしい。)
英虞湾の写真(japan-magazineから)を見ると木材を組んでつくられた筏(rafts float )が浮かんでいるのがわかる。英虞湾は入り組んだ入り江になっており、比較的台風の被害(風や波)に強いといわれている。
Ago Bay where islands and rafts float (C)ISESHIMA TOURISM&CONVENTION ORGANIZATION木の筏が浮かぶ風景は風情があるのだが、現在はロープを張ったロングラインと呼ばれる筏も多い。ロングラインは貝掃除作業が楽なのだ。(私の地元ではロングラインをビンダマと呼んでいた。浮き=フロートがまだガラスの瓶玉だった頃の名残りだろう。)
挿核(貝に真珠の元となる核を入れる手術)作業を終え、作業後の養生をした貝は沖合の筏に移動させる。
真珠筏が多く=貝が多く、潮の流れが小さい入り江より、沖に近いほうが、アコヤガイは栄養となるプランクトンを多く摂れる。可能な限りアコヤガイをプランクトンの多い場所に運びたい。養殖屋の心意気?!だ。沖合は真珠の色が黄色くなるという説もあり、どこの海に運べば良い色になるかは経験と戦略なのだが。この辺のノウハウはたいてい秘密にされている。
台風接近。となると。
沖合にある真珠貝は、波の静かな湾内に移動となる。
そのままでは貝が海底に落ちてしまったり、荒波にも揉まれて傷んでしまったりする。
真珠筏の錨がちゃんと効いているかを確認し、弛んでいるロープがあれば締め直す。
ロープのロングライン筏の場合は緩んでいるとロープ同士が擦れて切れたり、絡まったりしてあとで面倒なことになる。
今年はもう、使う予定がないなら、錨とブイだけ残して筏を撤収。木枠筏の上に資材があればロープで固定するか陸に運ぶ。等々。
最後に作業船を入り江の一番奥に係留して終了である。
ロングラインの筏が少なかったころは木枠の筏をそのまま船で引っ張って湾の奥に持ち込むこともあった様に思う。
移動によって真珠貝が弱ると真珠の巻きに影響する。できるなら移動はしたくないのだが、台風だと仕方ない。
台風シーズンだからと静かな湾内にずっと置いておけば栄養が足りない。栄養が足りなければ真珠の品質が悪くなる。
台風は来ず、しかし、適度に雨が降るというのが理想だ。適度な雨が降れは餌となるプランクトンが多くなる。だが、天候はなかなかそう思い通りにはいかない。
さて、上陸した台風の数が6となった今年の、真珠の出来はどうなるだろうか?
*伊勢湾台風による真珠の被害にも触れようと思ったが、真珠関連に関しては見つけられなかった。あまりにも、被害が大きかったためだろうか。
全国被害状況集計において、犠牲者5,098人(死者4,697人・行方不明者401人)、うち愛知県で3,351人(うち名古屋市1,909人)、三重県1,211人と、伊勢湾岸の2県に集中。負傷者38,921人。
全壊家屋36,135棟・半壊家屋113,052棟、流失家屋4,703棟、床上浸水157,858棟、船舶被害13,759隻。
被災者数は全国で約153万人に及んだ。うち、三重県は約32万人、愛知県は約79万人と、県全人口の約2割が被災した。
wikipedia 伊勢湾台風
下記の伊勢湾台風(英語名はTyphoon Vera)の英語記事によれば、おびただしい養殖筏が失われ、合計600万ドルの損害。加えて波により7500万個の真珠貝が失われ1000万ドルの損害となったとある。
In addition to the damaged craft, numerous oyster rafts were also lost, with losses totaling US$6 million. Also, 75 million individual pearl oysters were lost to the waves, resulting in US$10 million in additional losses.名古屋では伊勢湾台風展やってるらしい。http://www.minato-bousai.jp/isewan2016.html
元記事 Typhoon Vera
(2016年10月10日。加筆しました。)