真珠アコヤガイ大量死への対策は今さら交雑種なの??
日本の真珠関連のニュースはあいかわらずアコヤガイ大量死ばかり。原因究明はまだ途上のようだ。
原因は温暖化?
真珠の産地の伊勢志摩地域で母貝のアコヤガイが大量死した問題で、鈴木英敬知事は二十三日、志摩市大王町船越の養殖現場を視察した。生産者らは「地域によっては稚貝が全滅に近い」「温暖化で海の状況が変わってしまった」などと訴え、鈴木知事は稚貝の増産など支援を急ぐ考えを強調した。(中日新聞)
温暖化で海の状況が変わってしまったとまでは言い切れないだろうと思う。
お隣の鳥羽では養殖カキが「例年よりやや身は小ぶりながら良質で生産量もほぼ例年並み」というニュースがでている。
鳥羽磯部漁協浦村支所浦村かき組合によると、同湾でのかき養殖は昭和2年に始まり、真珠不振の昭和40年代にピークを迎えた。(略) 今年は例年よりやや身は小ぶりながら良質で生産量もほぼ例年並みという。同組合の松村清代表(60)は「季節と共に味わいが変わる浦村のカキを楽しんで欲しい」と話していた。
海の状況が変わったのであれば、かき養殖にも影響がでているのではないだろうか?
ところで、真珠不振の昭和40年代にピークを迎えたと記事にある。真珠養殖とカキ養殖は使用する資材が同じなので、業種を転換した業者が多かったのだろう。
この昭和40年代真珠不況とは何か?西村守親著「美しき真珠戦争」より抜粋。
3.真珠不況期(1967年真珠不況-1975年)
真珠輸出金額は昭和41(1967)年をピークに昭和46(1971)年まで落ち続けた。過剰在庫による価格低下は、養殖業者の倒産・廃業を呼び生産量も減少させた時期であった。
儲かると見た養殖業者が参入し、真珠は過剰生産となる。この過剰生産により品質が低下する(真珠層の薄いウスマキが増えた)。その後、経済発展中の日本国内の真珠需要増により、生き残った養殖業者は窮地を脱した。
という流れである。真珠不況は結局は日本の好景気に助けられたわけである。
中日新聞のニュースに戻る。
交雑種の稚貝についての要望があったとある。大量死はアコヤガイにも問題にあるのではないかという視点だ。
県は当面の稚貝不足を補うため、来年一月から稚貝を生産し、四月以降、生産者に配ることにしている。生産者側からは「中国産アコヤガイとの交雑種は病気に強い。交雑種の稚貝も育ててほしい」との要望も出た。県側は外来種を持ち込むことは遺伝子のかく乱につながるとして、従来否定的な立場を取ってきたが、鈴木知事は「課題を検討しつつ、生産者の要望に沿って進めたい」と、前向きに検討する考えを示した。(中日新聞)
「交雑種の稚貝」の導入とは。
例えば、海水温の上昇が斃死の原因ならば、南方系アコヤガイの交雑種なら高水温に強いのではないか、ということだと思う。
とにかく病気や環境変化に強いアコヤガイをという要望だ。
これらは20年ほど前におきた赤変病によるアコヤガイ大量死への対策と同様だ。病気に強いという事で交雑種は既に使用されてきたのだ。現場ではハーフ貝と呼ばれている。
対策がまったく研究されてないかといえばそうではなく、ネット上検索すると何件かヒットする。
下記は日本産アコヤガイの閉殻力の遺伝についての研究(2009年)なのだが、交雑種の現状について記述がある。
日本産アコヤガイ Pinctada fucata martensii における閉殻力の遺伝(pdf)
真珠養殖において,8月から10月の高水温期におけるアコヤガイ,Pinctada fucata martensii のへい死は長年問題とされてきた。これに平成 8年頃より発生した赤変病(黒川ら 1999)による被害が加わったことから,その対策として高水温に強い外国産アコヤガイと日本産アコヤガイの交雑貝が用いられるようになった。また,交雑貝の利用に際して日本産アコヤガイとの生理特性の比較(和田ら 2002)や養殖方法の検討がなされ,その利用率が高くなっている。(略)そこで本研究では,閉殻
力の強弱で両方向に選抜した親を用いて交配を行い,作出した第一世代の閉殻力を比較することで閉殻力の遺伝性について検討を行った。さらに閉殻力の遺伝率を求め,閉殻力による選抜育種の可能性についても評価を試みた。
次は貝の閉殻力を指標とした育種技術の研究。本文中(赤字部分)にもあるように、海外の貝を持ち込むことは在来種や環境に影響が出る。そこで強い日本産アコヤガイ作る技術の開発と実用化なのだ。今さら交雑種を望むのは逆戻りだと思う。
高品質アコヤガイ真珠の効率的養殖技術の開発と実用化 - J-Stage(pdf)
(略)日本産貝の赤変病に対する抵抗性は交雑貝や中国系貝と比べて低いものと推察された。一方,交雑貝や中国系貝では,死亡率は低いものの,生産された真珠の色目等の品質が従来の日本産貝の真珠に比べてやや劣るなどの問題が指摘されていた。17,18) さらに交雑貝や中国系貝の生産は,親貝として導入した外国産種苗の養殖漁場での放卵放精による在来種や生態系への影響が懸念されるほか,貝の導入により新たな病原体を持ち込む危険性もある。 そこで,筆者らは高水温期でも良好な栄養状態を保ち,赤変病に対しても生残率の高い日本産のアコヤガイを作出する技術として,貝の「閉殻力」を指標とした育種技術を開発した。
この研究は2015年に発表されている。
今回死んだアコヤガイがどのような素性だったのかは報道がないが、来年は閉殻力の強い日本産のアコヤガイに期待したい。