
1960年代の真珠不況はミニスカートが原因というのは真実なのだろうか。
1967年に真珠業界は不況に突入した。この不況の時期に、かのミキモト真珠も各地にあった真珠養殖場をひとつだけ残して販売に主軸を移した。
NHKのサイト
”視点・論点 「知られざる真珠王国 日本」
歴史研究者 山田篤美”
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/177417.html
にこんな記述がある。
しかし、1967年、真珠はぱたっと売れなくなります。真珠業者が次々と倒産。真珠不況が始まりました。原因は、ミニスカートの世界的大流行でした。ミニスカートに真珠は似合わず、真珠の需要が激減したのです。御木本幸吉は真珠で女性の首を絞めると言っていましたが、ミニスカートから出た女性の白い足によって、日本の真珠業界は首を絞められたのでした。
さすがNHK、ネット上では、ミニスカートが原因で不況になったというのが、真珠のトリビアとしてひろまっているように思う。
この歴史研究家の山田篤美さんの書いた「真珠の世界史」という本の234ページに、恨みのミニスカートという段があり、上記NHKサイトよりも詳しい。真珠不況はミニスカートが原因という新聞記事が1967年に出たとある。そして、こう続く。
ただ、真珠不況を到来させたのはミニスカートだけでもなかった。真珠は作れば作るほど儲かったため、過剰生産が当たり前だった。養殖期間を短縮して、粗製乱造の真珠を作る生産者も少なくなかった。品質の低下した真珠が大量に出回って、バイヤーの不信感を招いていたのは事実だった。
「真珠の世界史」 236ページ
私は、この過剰生産が不況の主な原因だと思う。
ミニスカート云々は業界の責任転嫁ではなかったかと感じる。
もちろん、ミニスカートのほうが話としては面白いが。
養殖期間の短縮というのは、越し物から当年物へのシフトのことだ。
当年物とは春先に核入れして翌年の1月に浜揚げ(収穫)をする真珠で、養殖期間は実質8ヶ月から10ヶ月くらい。
越し物を当年物に切り替えれば真珠の生産量が増やせる。 真珠層の厚さ=巻きは越し物に比べれば当然薄い。
また生産量が増え漁場が過密(密植)になれば、海は疲弊し、真珠の巻きは悪くなる。そういった薄巻き真珠も市場に流れたのだろう。薄巻きでも良い値がついたのだろう。ある種のバブルだったのだ。
(*現在の真珠養殖でも当年物の比率は高い。資金を何年も海の中に寝かせておくことは難しい。薄巻きはまったく安い。)
ちなみに生産のピークである1966年。農林水産物の輸出金額のうち10%が真珠だったという。今では信じられない話。
(愛媛の真珠養殖業者のタンスには札束が詰まっていたという。うらやましい。)
本「美しき真珠戦争」にこういう下りがある。
輸出不信の原因はなんであったのか。「海外輸入・卸売り業者の買い控えであった。」
国際会議の海外代表者たちの一致した意見は「日本産真珠を扱い得るための日本側の価格の安定、品質の向上、流通秩序の維持等に関する率直な疑念であった。」
「第二は、海外にあったその総在庫量は、優に我が国における年間の浜揚げ量に匹敵する水準にあった。」
「美しき真珠戦争」 西村盛親著 171ページ
(カギカッコ内は)
当時は日本の真珠業界が世界の真珠市場を独占していた。そのため、「売ってやる」という上からの商売になっていて、海外の需要(海外在庫量)を見誤まったようなのだ。
1970年代、日本の経済成長もあり、真珠は輸出から内需へと変遷して、真珠業界は持ち直したのだった。
参考 Amazon 真珠の世界史
Amazon 美しき真珠戦争―そのグローバリゼーション

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